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大腸内視鏡検査(大腸カメラ)病理結果集計
(2018~2020)

前回に続いて、これまで当院で行った大腸内視鏡検査(大腸カメラ)で、生検またはポリープ切除を行った結果を集計しました。

大腸内視鏡検査(年度) 2018 2019 2020
進行大腸癌 7 3 6
早期大腸癌(sm2以深) 1 3 3
早期大腸癌(sm1以内) 6 7 5
大腸腺腫 191 429 526
SSA/P 26 67 70
鋸歯状腺腫(TSA) 0 5 2
過形成性ポリープ (HP) 16 23 44
炎症性ポリープ 2 2 2
若年性ポリープ 3 1 4
Peutz-Jeghersポリープ 0 1 0
平滑筋腫 0 1 1
カルチノイド 0 1 3
潰瘍性大腸炎 12 13 14
クローン病 1 0 1
虚血性結腸炎 7 13 17
大腸内視鏡検査数 416 675 786
ポリープ切除術件数 142 282 338
ポリープ切除病変数 245 539 657
過形成性ポリープ切除率 (%) 6.5 4.3 6.7
癌発見率(%) 3.4 1.9 1.8

当院での大腸癌発見率は2%前後となっています。当院で治療困難な早期癌は最初から生検せずに総合病院に紹介していますので、実際の大腸癌発見率はもう少し上がると思います。

大腸がん検診(便潜血)陽性の方で、精査で癌が見つかる確率は約2~5%と言われています。当院の場合受診される患者さんの平均年齢がかなり若いので、比較的癌発見率は低めの数値になります。また、若い方が多い分、潰瘍性大腸炎の患者さんが多く診断されていることも特徴のひとつかなと思います。

合併症としては、後出血や細菌性腸炎(術後創部感染)は開院以来数名おられましたが、いずれも外来での処置または経過観察のみで軽快されております。遅発性穿孔や大出血など、入院治療が必要になった重篤な合併症は幸いなことに今までのところ1件もでておりません。

早期大腸癌の中で、sm2以深となっているものは、リンパ節転移の可能性が10%程度あるため、念のため追加手術が必要だった癌です。一方、sm1以内となっているものは、当院での内視鏡治療だけで完治できた癌です。

また、当院で治療した早期大腸がんや大腸腺腫、SSA/P(SSL)の中には、20mmを超える大きな病変も多数含まれています。多くのクリニックでは、このような病変は病院へ紹介していると思いますが、当院では患者さんの利便性を考慮して、検査が一度で済むように、可能な限り当院で治療を完結しております。

ただし、見ただけで明らかにsm2以深の癌と分かる場合や、内視鏡的粘膜剥離術(ESD)という治療法でないと確実な切除が難しい病変は最初から総合病院に紹介しています。

進行大腸がんが見つかった方は、大腸がん検診(便潜血)を毎年きちんと受けていなかった方がほとんどですが、中には毎年大腸がん検診(便潜血)をしっかり受けてたのに、残念なことに進行するまで発見されなかった方もおられます。

便潜血は大腸がんの8割(毎年受けている場合は9割)を発見できる非常に優れた検査です。しかし、せっかく便潜血検査で陽性となったのに、その後大腸内視鏡で精密検査を受けられる方の割合は、なんと6割程度しかいないと言われています。

日本では従来から鎮静剤や麻酔を使わずに、痛みに耐えて大腸内視鏡検査を行う伝統?のようなものがあり、人々に恐怖心が植え付けられていることが一因と言われてます。一方米国では、麻酔を使うことが一般的なので、大腸内視鏡検査に対する人々の抵抗感が全くないと言われてます。

当院では積極的に鎮静剤を使用いただくことで、何度でも受けたいと思っていただける検査を心がけています。初めての大腸内視鏡検査で辛い思いをさせてしまって、心にトラウマを作ってしまうような事があれば、その患者さんが将来、大腸癌を早期発見・治療される機会を奪ってしまうものと考えているからです。

また、便潜血検査による大腸癌検診は、あくまでも「大腸癌」に対する検査であって、大腸ポリープに対する検査ではありません。大腸癌になる前の大腸ポリープを見つけ治療する方法は大腸内視鏡検査しかありません。

一生に一度でも大腸内視鏡検査を受けたことがある方は、大腸癌の死亡率が低いという研究結果もありますので、無症状でも50歳くらいを目安に、一度は大腸内視鏡検査を受けておかれると良いと思います。

ところで、大腸ポリープには大腸鋸歯状病変と言われるグループがあり、ここには、今出てきた過形成性ポリープ(HP)の他に、古典的鋸歯状腺腫(TSA)、Sessile Serrated Adenoma/Polyp (SSA/P)があります。SSA/Pは直訳すると固着性鋸歯状腺腫/ポリープですが、良い日本語訳がありません。

2019年からはSSA/Pの病理学的な診断基準が変更され、名称もSessile Serrated Lesion (SSL) になりました。従来の診断基準では過形成ポリープ(HP)に診断されていた病変も、新基準では多くがSSLに分類されることになりました。

この3種類のポリープが同じグループに分類されているのは、病理学的に(顕微鏡的に)見た目がそっくりだからです。顕微鏡でみても見分けが付きにくいものを、内視鏡で見分けるのは並大抵の事ではありません。ただ、見た目がそっくりでも、HPと違い、TSAとSSA/P(SSL)は癌化しますので、見逃さずに治療しないといけません。

しかしこのSSA/P(SSL)は、見た目が正常の粘膜とほとんど一緒なので、非常に見逃されやすいのも特徴のひとつです。大腸内視鏡検査を定期的に受けていて異常なしと言われていたのに、数年ぶりに検査を受けたら突然進行がんが見つかった、というケースは稀ではなく、これはこのSSA/P(SSL)が原因と言われています。

癌化しないと言われている過形成性ポリープ(HP)は、切除する前に内視鏡でこれと診断できれば、切除は不要なのですが、癌化するSSA/P(SSL)と内視鏡で区別することは非常に困難で、ある病院の報告によると、過形成性ポリープ(HP)と大腸鋸歯状病変(SSA/P)の内視鏡での鑑別診断率は60~80%だったそうです。当院でも61~74%となっており、内視鏡で見分けるのが非常に難しいです。

そのため、SSA/P(SSL)を疑い切除したものの、結果的に過形成性ポリープ(HP)だったという事が毎年4~6%の割合でありますが、これをなるべくゼロに近づけつつ、かつSSA/P(SSL)は見逃さないように、今後も診断技術の研鑚に努めていきたいと考えています。