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慢性便秘症の治療と大腸メラノーシス

今回は慢性便秘症の治療についてです。

ずっと長い間、便秘で下剤を使い続けている患者さんに大腸カメラをすると、腸の色が変わっていることがあります。これを大腸メラノーシスと言います。

慢性便秘症の治療と大腸メラノーシス

これは大黄(ダイオウ)を含む漢方薬を内服されていた患者さんで、ヒョウ柄のように褐色に色素沈着しています(ご本人より、掲載許可をいただいております)。

色素の正体はリポフスチンと言って、大黄(ダイオウ)など刺激性の下剤で腸管の細胞が死滅し、それをマクロファージが食べることで、この色素が合成され沈着ます。

ただ単純に色素が沈着しているだけではなく、このような状態になると、大腸の運動に係る神経も損傷を受けていて、腸の緊張がない、弛緩性便秘と言われる状態になってしまっています。

1年間、原因となっている便秘薬を中止して他剤に変更すると、下の写真のように色がもどります。

慢性便秘症の治療と大腸メラノーシス

こうなると、実際に腸管の運動も改善され、便秘薬自体が必要なくなる方もおられます。

もっとすごい方もおられました(ご本人より、掲載許可をいただいております)。

慢性便秘症の治療と大腸メラノーシス

真っ黒で、影と腸管壁の区別もつきません。

こちらの方は、どんなにたくさん下剤を使っても、1週間以上便が出ないような方でした。

こちらも、1年間、原因薬剤を中止していただきました。

慢性便秘症の治療と大腸メラノーシス

同じ方の腸には見えないと思いますが、同一人物の写真です。

この時点ではまだ褐色調が残りますが、さらに2年後に内視鏡をした際には、完全なピンク色に戻っていました。

それだけではなく、現在は下剤をほとんど飲まなくても毎日快便になりました。

 

便秘薬といっても、色々な種類があります。

大まかに、1⃣大腸刺激性下剤、2⃣浸透圧性下剤、3⃣上皮機能変容薬に分けられます。

2⃣は酸化マグネシウムやモビコール®、3⃣はグーフィス®、リンゼス®、アミティーザ®などがあります。

2⃣と3⃣は長期間使用しても依存性が無いと言われています。酸化マグネシウムは薬局で手に入るお薬で、安価ですのでお勧めです。

問題は1⃣の、大腸刺激性下剤です。

大腸刺激性下剤にも種類があり、①アントラキノン系、②ジフェノール系、③ジフェニルメタン系とあります。

①のアントラキノン系下剤にはセンナ、アロエ、大黄(ダイオウ)、カスカラ、キャンドルブッシュがあり、この種類が大腸メラノーシスの原因となります。

センナを含む薬品:センノシド®、プルゼニド®、ソルダナ®、アローゼン®、アジャストA®、ヨーデル®、セチロ®、スルーラック®、新ウイズワン®

アロエを含む薬品:アロエ錠、アロエ粉末、アロエベラジュース

大黄(ダイオウ)を含む薬品:セチロ®、大黄甘草湯®、防風通聖散®、麻子仁丸®、柴胡加竜骨牡蛎湯®、大柴胡湯®、乙字湯®、桃核承気湯®、その他各種漢方薬、タケダ漢方便秘薬®、ハーブイン「タケダ」®、ナイシトール®

カスカラ(カサンスラノール)を含む薬品:ビーマス®、ベンコール®、新ウイズワン®

キャンドルブッシュ(ハナセンナ、ゴールデンキャンドル、カッシア・アラタ)を含む薬品:便秘やダイエットの効能をうたう、各種健康茶(下記リンク先)

②のジフェノール系下剤にはピコスルファートナトリウム®、ラキソベロン®、ピコラックス®、ビオフェルミン便秘薬®、があり、アントラキノン系と比較して作用はマイルドと言われています。

③のジフェニルメタン系下剤ビサコジルという強力な下剤ですが、嘔吐・腹痛などの副作用が出やすいと言われています。コーラック®、ビューラック®はこちらです。医療用医薬品では坐薬のみ取扱いがあり、レシカルボン坐薬®、テレミンソフト坐薬®があります。

大腸メラノーシスを起こすのは①アントラキノン系だけですが、弛緩性便秘を起こすのは①~③すべてです。

腸の色が変わっていなければ大丈夫というものではなく、刺激性下剤の長期連用は腸の運動を障害し、排便の刺激を鈍感にさせ、便秘を悪化させます。

刺激性下剤はすべて、屯用といって、2~3日排便が無かったらその都度使用、という程度に留めてください。

刺激性下剤をめぐっては、2つの大きな問題があります。

まず第1は、医師・薬剤師でも弛緩性便秘の副作用を知らずに処方していることがあることです。

特に漢方薬については、漢方薬だから体に安全なのだろうという先入観があり、大黄(ダイオウ)が大腸メラノーシスや弛緩性便秘を起こす危険のある成分であることを知らないパターンと、漢方薬の成分に大黄(ダイオウ)が含まれていることを知らずに処方しているパターンとがあり、いずれも数多く見られます。

後者のパターンで特に多いのは、「やせ薬」として一時期もてはやされた、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)です。これも大黄(ダイオウ)が含まれていて、その下剤作用で排便があり体重が減ると、「痩せた」と錯覚させられるのです。

漢方薬であっても、大黄(ダイオウ)含む製剤については、便秘時の屯用として使用してください。便秘治療の効能がある漢方薬で大黄(ダイオウ)が含まれていないのは、大建中湯だけです。

過去の減肥茶やダイエットサプリには、さらにフェンフルラミンという覚せい剤類似薬まで含まれていたことがあり、日本でも死者がでています。

今でも個人輸入のダイエットサプリなどでは、規制の目を通り抜けてしまっている可能性があります。努力しなくて痩せられるといった、甘い言葉にのせられないでください。

第2の問題点は、医師・薬剤師の処方が無くても手に入ることです。

センナなどアントラキノン系の下剤は、欧米では医師の処方がなければ手に入れることができないそうです。

日本でも、センナの果実・小葉・葉柄・葉軸は医薬品として扱われていて、医師・薬剤師の処方が必要です。しかしセンノシドの含有率が比較的少ない、センナの茎については、「下剤」と表示しなければ食品扱いになり、自由に販売できるという、なんとも不思議なルールになっています。

同じアントラキノン系下剤のアロエに至っては、そもそも医薬品扱いではないため、アロエジュースなど自由に手に入れることができます。

ダイエットの効能をうたう、健康食品・サプリメント・お茶には、ほぼすべてセンナ、アロエなどアントラキノン系下剤が含まれています。下剤作用で一時的に体重が減ることを、ダイエット効果が出たように誤認させて、大きな利益を上げています。

これらの、健康被害が起こり得る食品が、医師や薬剤師に相談することなく、一般の方が手に入れる事ができてしまう現状は、大変問題だと思います。

センナ・アロエの健康食品は、長期間使用すると本当にひどい便秘症になってしまうので、極力避けてください。

高濃度のセンナが含まれていて、厚生労働省で注意勧告が出た健康食品は、以下のリンク先から閲覧できます。

結局、便秘の治療はどうすれば良いのか?と思われる方もいると思います。

迷ったら、まず酸化マグネシウムです。

ただし、持病のある方には副作用がでる心配もありますので、そのような方は主治医にまず相談してください。