肝機能異常について
肝機能障害(肝機能異常)は、肝臓の細胞が炎症やアルコールの影響などで壊れてしまい、肝臓の細胞がだんだんと壊れていく状態です。肝臓の細胞が壊れると、通常は血中には一定の値しか含まれない肝臓系の酵素のASTやALT、胆のうで作られる胆のう系の酵素ALPやγ-GTP、肝臓など内臓に炎症が起こったときに増加するLDH(血清乳酸脱水素酵素)、主に肝臓でつくられる酵素のアルブミンの低値、黄疸の原因物質であるビルビリンの高値などが起こります。これらは血液検査で確認することができます。
肝機能障害は、初期のうちはまず自覚症状がありません。そのため、企業で行う定期健診や自治体の行う特定健診などで指摘されて自覚することが多くなっています。
肝機能障害の疑いで受診された場合には、問診が重要な役割を果たしますので、詳細な問診を行い、その結果に応じて、腹部エコー検査、血液検査といった必要な検査を行って、原因を特定し、必要な治療方針を立案していきます。
当院では、消化器内科の専門家の医師が、直接検査も担当し、しっかりと自分の目で確認していきますので、その場で正確に検査結果を分析することができます。何か肝臓に不安があるときはいつでもご相談ください。
肝臓について
肝臓は、胃の後あたりの右の肋骨の下に位置している、人体で一番大きな臓器です。大きさは人による部分もありますが、およそ体重の2%程度の重量があると言われていて、平均1.0~1.5kg程度です。肝臓には心臓からくる大動脈、腸からの血液を運ぶ門脈、肝臓で掃除された血液を送り出す冠動脈の3つの大きな血管があり、体内で重要な活動をしています。肝臓は細胞の予備能力が非常に高い臓器であり、その70~80%を切除しても生命維持が可能なほどで、また細胞の再生能力も高いものがあります。
肝臓の役割
肝臓の働きは、「栄養分をつくる(精製)」「栄養分を貯める(貯蔵)」「不要物や毒性のあるものを処分する(解毒)」の3つに大きく分けることができます。
栄養分をつくる(精製)
小腸で吸収されたアミノ酸などの栄養分を門脈によって肝臓に運び、肝臓はそれを材料にしてたんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルなどを製造します。
また、肝臓では胆汁を製造し、胆のうに運んで、消化酵素として十二指腸に届けます。
栄養分を貯める(貯蔵)
小腸で吸収されたブドウ糖を必要な分、血中に混ぜて細胞のエネルギー源として送り出すとともに、余ったブドウ糖をグリコーゲンに換えて肝臓で蓄積します。またビタミンなども同様に蓄積し、必要になった際には血液に混ぜて送り出します。
不要物や毒性のあるものを処分する(解毒)
飲酒などで血中に入ったアルコール、アンモニアなどの不要物を段階的に分解し、体外に放出します。
肝機能異常の原因
脂肪肝
中性脂肪が肝臓に蓄積してしまっている状態を脂肪肝といいます。肥満や内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)になると脂肪肝も合併しやすくなります。脂肪肝は、放置すると肝臓の細胞を壊してしまい、肝炎を起こしやすい状態ですが、かなり悪化するまで自覚症状に乏しく、定期健康診断などで指摘されて気づくことが多くなっています。
脂肪肝の方の肝臓をエコー検査で確認すると、実際に肝臓の色が白く見えます。これは、脂肪を多く含む肝臓はエコーを強く反射するためです。
脂肪肝は、アルコール性と、非アルコール性(肥満性)とに大きく分けられます。その他、女性ホルモンに作用する内服薬や、極端な痩せでも脂肪肝になることがあります。
アルコール性脂肪肝
アルコールは脂肪で分解されますが、その際中性脂肪が一緒に合成されるため、アルコールを飲み過ぎると、肝臓に中性脂肪が溜まって脂肪肝となります。
非アルコール性脂肪肝
お酒を飲まない人の場合も、運動不足や肥満などの理由で、インスリンの働きが低下すると、血中のブドウ糖が中性脂肪に変換されてしまい、脂肪肝の原因となります。
肝炎
肝臓の細胞が炎症を起こし壊れてしまうのが肝炎です。
肝炎は主にウイルス感染によるものや、薬剤によるもの、生活習慣によるものなどがあります。
ウイルス性肝炎
肝炎ウイルスによる感染症で、肝炎ウイルスの種類は主にA~E型などのタイプがあります。A型とE型のウイルスは食物を通じて感染し、一時的なものです。B~D型のウイルスは血液を通じて感染します。このうちB型とC型は感染すると慢性化することがあり、重症化の危険もあります。
A型肝炎
A型肝炎ウイルス(HAV)に汚染された食品を食べることや飲水による経口感染が多く、日本ではあまり感染例がありませんが、東南アジアなどからの帰国者に見られます。主な症状は、発熱、全身の倦怠感、食欲不振などの他、重症化すると黄疸や肝腫大などの症状が現れることもあります。
潜伏期間は4週間程度ですが、それまでの3週間目あたりから便から菌が排泄されるようになるため、手への付着などから他人へ感染を拡げる可能性が発症後数か月も続きますので、防疫面で注意が必要です。予後は良好で慢性化することも稀です。
B型肝炎
B肝炎ウイルス(HBV)に感染した人の血液や体液経由で感染します。つまり性交渉、麻薬などの注射器の使い回しなどからの感染例が多く、また、出産、授乳などの際の母子感染もあります。まだHBVについての知識が不十分だった頃の昭和23年から昭和63年までの集団予防接種では注射器の使いまわしが行われており、日本でのB型肝炎患者は、この時期に感染した方が多数を占め、最大40万人いると言われています。
感染しても1~6か月と長い潜伏期間を経てまずは急性肝炎となり、吐き気・嘔吐、褐色尿、前史の倦怠感、食欲不振などの症状とともに黄疸がでることもあり、時に劇症肝炎を起こし生命に危険が及ぶケースもあります。その後慢性化することが多く、慢性化した場合は肝硬変や肝臓がんを合併することがあります。治療は抗ウイルス薬としてのインターフェロンやウイルスの増殖を直接阻害する核酸アナログ製剤などによって行います。なおD型肝炎はB型肝炎に合併して発症する非常に稀な肝炎です。
C型肝炎
以前はC型肝炎ウイルス(HCV)に汚染された血液が混入した輸血、血液製剤などによる血液感染が主な感染経路でした。これはまだHCVウイルスが発見されていない時代の事で、1988年以前の滅菌処理が不十分な血液製剤を投与された患者の多くが感染してしまいました。輸血の衛生環境が整った現在では、覚醒剤などの注射器の使い回し、きちんと消毒されていないピアッシング、刺青などを経由して感染することが多くなっています。B型肝炎と異なり、母子感染や性交渉による感染は0ではありませんが少ないとされています。C型肝炎は、感染してもほとんどの場合急性肝炎の発症がなく、60~70%が自覚のないままキャリア(無症状の病原体保有者)となり、慢性C型肝炎となります。その場合もあまり自覚症状のないまま、そのうち10~15%程度が20年ほどかけて肝硬変となります。肝硬変となると肝臓がんへ移行する確率も高くなります。治療には、以前はインターフェロンが使われていましたが、現在ではインターフェロンフリーの抗ウイルス薬治療が中心となっています。
E型肝炎
途上国では、E型肝炎ウイルスに汚染された糞便などが混じった水、食べ物などが原因で発症、流行することがあります。日本では、豚や猪のレバー、鹿肉などの生食から感染することがあります。基本的に急性肝炎で慢性化することは稀です。治療法は特に特効薬のようなものはなく、対症療法と安静になります。
アルコール性肝炎
お酒を大量に飲むことが原因で起こる肝炎です。肝炎は痛みなどの症状がなく、倦怠感や食欲不振などが現れることが多いのですが、アルコール性肝炎の場合は右上腹部の痛み、紅茶色の尿、黄疸などのはっきりした症状が現れることがあります。飲酒癖のある人すべてに発症するわけではありませんが、長年大量の飲酒を続けた人に多く発症する傾向があります。
禁酒の上安静にしていることが治療法ですが、時に腹水やむくみなどが発症して重症になった場合は入院治療を行います。
非アルコール性脂肪性肝炎
メタボリックシンドロームや肥満、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病などが原因となって起こった脂肪肝から炎症を起こして発症します。そのまま放置してしまうと、肝硬変や肝臓がんを合併するようになります。過食や運動不足などがメタボリックシンドロームや生活習慣病の原因となりますので、食事療法、運動療法などで生活習慣の改善を行います。また原因となっている生活習慣病の治療を同時に行います。
自己免疫性肝炎
何かしらの原因で、免疫細胞が自身の肝細胞を攻撃してしまうことによって起こる肝炎です。原因ははっきりとわかっておらず、難治性のため、国の難病に指定されています。1対4程度の比率で女性に多く、多くの場合は他の自己免疫性疾患を合併しています。治療としてはステロイド薬による免疫抑制を行います。
薬剤性肝炎
服用している医薬品が原因で起こる肝炎ですが、医薬品だけではなくサプリメントも原因となることがあるため注意が必要です。医薬品やサプリメントそのものが原因となる場合と、その成分が肝臓で代謝されてできた物質が原因となる場合があります。原因となっている物質をつきとめ、服用を中止することと、ステロイド薬や抗アレルギー薬によって治療を行います。
肝硬変
慢性肝炎によって肝細胞が障害されると、それを修復しようとする力が働きます。その副産物として膠原線維細胞ができてしまいます。炎症が長く続くことによって、徐々にこの膠原線維細胞の量が肝臓内で増えてしまった状態が肝硬変です。線維質が増えた肝臓は硬くなり小さくなってきます。それにつれて肝臓のもっている3つの働きが衰えてしまい、とくに解毒作用が衰えることで、体内の有害物質の濃度が上昇し、様々な症状を起こします。また肝臓がんに移行するリスクも高くなります。
肝臓がん
肝臓がんには、肝臓そのものから発する原発性肝臓がんと、他の臓器からの転移によって発する転移性肝臓がんがあり、転移性の肝臓がんが原発性肝臓がんより4~10倍多くなっています。
原発性の肝臓がんの原因としては、B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎などが原因となることが多いのですが、近年、肝炎ウイルスに対しては抗ウイルス薬でウイルスを体外に排除できるようになってきましたので、将来はB型、C型肝炎は肝臓がんの原因としては減少していくことになりそうです。
肝機能異常の検査
採血検査
採血検査によってASTやALT、γ-GTPといった肝機能や胆のうの異常をあらわす項目や肝炎ウイルス感染の有無、肝臓がんの腫瘍マーカーなどを検査します。
腹部エコー検査
(腹部超音波検査)
腹部エコー検査は、身体の表面に医療用のジェルを塗って、エコーの発信器であるプローブを当て、エコーの反射と吸収の度合いを画像にして表されるものです。まったく侵襲のない検査ですが、肝臓の検査では、脂肪肝があれば、はっきりと脂肪が白く映り、肝硬変の場合は表面に特有のしわのような凹凸が観察できます。場合によっては肝臓がんを指摘できるケースもあります。
胃カメラ検査
(上部消化管内視鏡検査)
肝機能障害で胃カメラ検査というと、何故? と思う方も多いと思います。
しかし、肝機能障害が進行して悪化している場合、とくに肝硬変が進むと、胃や食道に静脈瘤が現れることが多く、その状態を見極めるために必要な検査となります。
当院の胃カメラは鎮静剤を使用して楽に受けられます。
大腸カメラ
(下部消化管内視鏡検査)
肝臓がんが転移性のものである場合、とくに考えられるのが大腸がんからの転移です。大腸がんの有無を確認するためには、大腸カメラ検査は必須の検査となります。
当院では、鎮静剤を使った楽な大腸カメラ検査を実施していますので、安心してご相談ください。
CT検査
肝臓は大きな内臓で、肝硬変から肝臓がんが疑われる場合、腹部エコー検査だけでは、確認しきれない部分もあります。
そのため、CT検査で肝臓を詳細にスライスした画像によって立体的に肝臓の詳細な状態が確認できます。
CT検査が必要な場合は、連携する東海中央病院様を紹介して検査を受けていただき、結果を当院で解析することになります。
MRI検査
肝臓がんが疑われる場合、MRI検査を行うことによってがんの大きさ・深さなどについて、詳細に確認することができます。MRI検査が必要な場合は、当院と連携する東海中央病院様を紹介して検査を受けていただき、結果は当院で分析し、治療経管を立案します。
肝機能障害の予防
肝機能障害は飲酒習慣、生活習慣の他、A~E型までの肝炎ウイルス感染によるものがほとんどです。そのため、肝機能障害の予防には適度な酒量を心掛け、運動習慣や食習慣の改善による生活習慣病の予防が大切です。
またウイルス性肝炎についてですが、A型とE型については糞便による感染、B型とC型については血液による感染で(D型は非常に稀です)、どの型においても性交渉による感染が0ではないことに留意する必要があります。性交渉で感染しやすいのは体液による感染も有り得るB型ですが、性交渉が多様化した今日では肛門や口腔を通しての感染も有り得る点に気をつけて、妊娠目的でない場合はコンドームを装着するなどの習慣をつける必要があります。
いずれの場合でも、肝機能障害はその初期のうちに発見し、適切に治療を受けることでコントロールしやすくなりますので、健康診断などで肝臓の数値を指摘された場合は、放置せずご相談ください。
肝機能異常の治療
肝機能障害の治療は、原因によって異なってきます。アルコール性肝炎の場合は、禁酒や断酒が第一で、その他の生活習慣の改善を行います。重症の場合には、薬物治療や血漿交換、白血球除去などの療法を行うこともあり、その場合は連携する高度医療機関を紹介させていただいております。非アルコール性肝炎の場合は、生活習慣の改善と原因となっている生活習慣病などの改善を主に行います。
肝炎の80%以上はウイルス性肝炎です。ウイルス性肝炎の多くはB型およびC型肝炎ですので、抗ウイルス薬の投与などが必要になるため、当院と連携する高度医療機関を紹介しての治療となります。
肝炎が慢性化し、肝硬変となると、肝臓がんへ移行する可能性が非常に高くなります。また、肝硬変も重症化すると肝臓の解毒機能が障害され、血中に有毒物質があふれて肝性脳症を起こし、意識障害から生命に危険が及こともありますので、早期発見、早期治療が大切です。
健康診断や人間ドックで
肝機能異常を
指摘された方は当院へ
肝臓は大きな臓器で、予備の細胞も多く、代替機能も働きやすいため、少々障害が起こっていても、あまり自覚症状がでてきません。その自覚症状の無さから「沈黙の臓器」と言われるほどです。そのため、健康診断などで、肝機能に関する数値を指摘されても、目立った症状がなければ放置して受診しないという人も多くみかけます。
しかし、そうして放置しているうちに、肝機能障害が慢性肝炎となり、肝臓の細胞がどんどん萎縮して繊維化して肝硬変になり、ついには肝機能そのものを失ってしまうことや、肝臓がんに移行して大変な治療になってしまうことがあります。
そうならないためにも、肝機能障害は早期発見、早期治療開始が大変重要になってきます。