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胃がん

胃がんについて

胃壁は一番内側(食物と接する側)に粘膜層、その下に粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層構造でできています。この粘膜層の細胞が何かしらの原因でがん化し、異常に増殖することで発症します。
当初は粘膜内にとどまっていますが、だんだん大きくなってくると、胃壁の下の層へと進んでいき、やがて隣接する組織に浸潤したり、リンパ系や血管を通して遠くの組織に転移したりすることになります。

胃がんの初期症状は
ほぼない

胸焼け胃がんは、早期のうちは自覚症状がほとんどありません。また、ある程度進行してもほとんど症状がなく、他の臓器やリンパ節などに転移してはじめて気がつくこともあります。
一般的にはある程度進行して、はじめて症状が現れますが、その症状は胃の痛み、不快感、胸やけ、吐き気、食欲低下など、他の上部消化管の疾患による症状と同じようなもので、定期的に画像検査などを行わない限り発見されにくいことが特徴です。
ただし、ある程度進行するとがん細胞はもろく壊れやすいため、出血を起こし黒色便が出るなどの症状から検査を受けて見つかるといったケースもあります。

胃がんの原因

ヘリコバクターピロリ菌

胃がんの原因として一番多いのは、ピロリ菌感染によるものです。日本では胃がんの原因の90%以上がピロリ菌を原因としているという調査があり、また世界保健機構(WHO)の調査では世界的にも胃がんの80%以上がピロリ菌によるものという報告もあります。
その他の発症リスクを上げる原因としては、喫煙習慣や塩分の過剰摂取、過度の飲酒などがあります。

ピロリ菌感染

胃がんの検査・診断

胃がんが疑われる場合は、問診で詳しい状況をお聞きした後、必要に応じて以下のような検査を行います。

血液検査

炎症の有無、他の不調の原因として感染の有無、血液の状態、肝機能や腎機能など全身の状態を調べるために血液検査を行います。また胃がんの腫瘍マーカーを調べることもできますが、必ずしも胃がんがあるからといってマーカーの値が上昇するとは限らず、また良性腫瘍で上昇することもありますので、他の検査のための参考値的に使用します。

画像検査

胃カメラ検査画像検査では、バリウム検査を行う施設もあります。この検査は嘔気などの侵襲少なく、医師以外の職種でも検査を行えます。がんの有無や大きさ・位置などの概要を知ることも可能ですが、確定診断にはなりません。
胃がんの場合、もっとも有効な検査は胃カメラ検査です。胃カメラ検査は口または鼻からカメラや照明、処置用の鉗子口などがついた細くて小さいスコープを入れ、食道から胃、十二指腸の粘膜の表面を詳細に観察できます。また特殊な光によって、がん細胞特有の周囲の血管の状況などを浮き彫りに観察することができ、早期の微細ながんを発見することも可能です。
さらに疑わしい病変があれば、組織のサンプルを採取して次項の病理検査を行うことができます。

病理検査

がんが疑われる病変の一部を採取して、顕微鏡によって細胞を確認したり、がんに特有の遺伝子の変異を調べたりして、確定診断を行うのが病理検査です。
消化管のがんの場合は、内視鏡を使って組織のサンプルを採取しますが、肝臓や膵臓などその他の臓器では、針生検といって、患部へ体表から針を刺して組織を採取する方法もあります。
胃がんの場合は、他の消化管同様、内視鏡的に組織を採取して病理検査を行います。

胃がんの治療

かつて日本では、胃がんはがんの罹患者数や死亡率で常にトップの位置を占めていました。そのため、胃がんに関する研究が進み、現在では、しっかりと治療法も確立されてきました。
胃がんが発見された場合、直ちにご希望される総合病院を紹介いたします。病院では、近隣への浸潤や遠隔の組織への転移などがないかどうか、腹部エコー検査や造影CT検査で状態を調べます。周囲への浸潤や転移が認められない早期がんには、胃カメラによる手術(内視鏡的切除術)であるEMRやESDを行います。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

EMRはスネアと呼ばれる投げ縄状の高周波メスを使う方法でスネアをかけられる大きさ(2cm程度まで)までの切除が可能です。
ただし、病変が1cmを超えると一括切除率が悪くなるため、実際には1cmを超えない病変の場合に実施が考慮されます。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

ESDは切除する範囲をマーキングしてから高周波メスでその周辺をまとめて1度で切除する方法でEMRより大きい病変を切除することが可能です。またどちらの方法も粘膜下層に生理食塩水を注入して行いますので、比較的安全です。

ピロリ除菌治療

ピロリ菌感染が陽性の場合は胃がんの手術後にピロリ菌の除菌治療を行うことで、再発の可能性を大きく低減できます。
ただし、除菌に成功したからといって、再発率は0にはなりませんので、定期的な経過観察を続けることが大切です。

その他

浸潤や転移のおそれがある場合には、それぞれの状態に合わせて、開腹手術や化学療法、放射線療法などを行います。

胃がんの内視鏡治療適応

リンパ節転移や血行転移のおそれがない場合には、胃カメラによる内視鏡治療の適応になります。
適応の評価には、病変の大きさ、深さ、潰瘍の有無、および病理検査での組織形態が必要になります。
リンパ節転移の確率が1%未満で、手術による切除と同等の治療成績が得られている病変は、内視鏡による治療が適応され、「絶対適応病変」と呼ばれます。

内視鏡粘膜切除術(EMR)の絶対適応病変

長径2cm 以下の 潰瘍の無い(UL0)の肉眼的粘膜内がん(cT1a)、分化型がん

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) の絶対適応病変

上記に加えて、

  1. 長径2cmを超える 潰瘍の無い(UL0)粘膜内がん(cT1a)、分化型がん
  2. 長径3cm以下の潰瘍のある(UL1) 粘膜内がん(cT1a)、分化型がん
  3. 長径2cm 以下の潰瘍の無い(UL0)粘膜内がん(cT1a)、未分化型がん

これらは内視鏡所見と生検組織検査からの術前の推定診断を根拠に治療が行われ、治療後に再度、病理検査で確認をします。
治療後の確認の結果、術前診断通りであれば、外科治療と同等の長期成績が得られており、治癒切除とされます。
長径3cm 以下の分化型がんで、腫瘍が一括切除され、粘膜筋板から 500μm 未満の粘膜下層浸潤がん(pT1b1:SM1)であった場合は、いまだ十分な長期成績は得られていないが、根治性が期待されるとされています。

それ以外の場合

リンパ節転移・血行転移の可能性があるため、原則として追加で外科手術が必要となります。

胃がんのステージ

胃がんのステージ胃がんに限らず、がんは現在、その進行度を現すステージという考え方が、その後の治療方針等の指針を立案するための基本的な分類となっています。
ステージを決定するには、がんの大きさ(T)、リンパ節への転移状態(N)、他の臓器への転移の有無(M)という3つの要素を組み合わせてⅠ~Ⅳまでのステージに分類していきます。
Ⅰ~Ⅳまでのステージはさらに、TNMの組み合わせによって、ⅠA、ⅠB、ⅡA、ⅡB、ⅢA、ⅢB、ⅢC、Ⅳの8つに細分されています。
胃がんと診断されると、検査によってステージを確定します。

ステージⅠ期

ステージⅠ期はAとBにわけられています。

ⅠA期

  • 胃の粘膜層にがん細胞が認められますが、リンパ節への転移はありません。

この期であれば、内視鏡的な治療で完治が見込めます。

ⅠB期

  • がん細胞が胃の粘膜層にとどまっている状態ですが、リンパ節への転移が2箇所まで認められる
  • リンパ節への転移は認められないが粘膜下層以下への浸潤が認められる

以上のどちらかに当てはまる状態です。この場合、外科的手術を行うことになり、状態によっては術後に化学療法や対症療法を継続することがあります。

ステージⅡ期

ステージⅡ期もAとBにわけられています。それぞれ、いずれかの項目に該当する状態です。

ⅡA期

  • がん細胞が粘膜下層まで拡がっており、リンパ節への転移が6箇所まで

  • がん細胞が筋層まで浸潤しているがリンパ節への転移は2箇所まで

  • がん細胞が漿膜まで浸潤していても、リンパ節への転移は認められない

ⅡB期

  • がん細胞が粘膜下層まで拡がっており、リンパ節への転移が15箇所まで
  • がん細胞が筋層まで浸潤していて、リンパ節への転移も6箇所まで
  • がん細胞が漿膜まで浸潤しているが、リンパ節への転移は2箇所まで
  • がん細胞が漿膜を突破して腹腔へ達しているが、腹膜への転移は見られない

Ⅱ期の場合、いずれも開腹手術や腹腔鏡下手術などが行われます。Ⅱ期になると再発の可能性も高くなり術後に化学療法が推奨されています。

ステージⅢ期

ステージⅢ期はA、B、Cの3つの段階に分けられます。

ⅢA期

  • がん細胞は筋層まで浸潤がみられ、リンパ節の転移が7箇所以上ある
  • がん細胞の漿膜下層までの浸潤がみられ、リンパ節への転移が3~6箇所ある
  • がん細胞が漿膜を超えて胃の表面まで浸潤しているが、リンパ節への転移は1~2箇所ある

といった上記のいずれか1つ、または複数が当てはまる状態です。

ⅢB期

  • がん細胞は漿膜下層までの浸潤がみられ、リンパ節への転移が7箇所以上ある
  • がん細胞は漿膜を超えて胃の表面まで浸潤がみられ、リンパ節への転移も3~6個ある
  • がん細胞が胃の表面に拡がっている上、あの臓器にまで浸潤していて、リンパ節への転移2個まである

ⅢC期

  • がん細胞は漿膜を超えて胃の表面まで拡がっており、リンパ節への転移が7箇所以上ある
  • がん細胞が胃の表面を超えて他の臓器まで浸潤しており、リンパ節への転移も3個以上ある

Ⅲ期の胃がんの場合は、いずれも開腹手術や腹腔鏡下手術などが行われます。さらに、再発防止のために術後に化学療法が推奨されています。
大きなかたまりを作ったリンパ節転移がある場合は、化学療法を先に行ってから手術行うことになります。

ステージⅣ期

がん細胞が遠隔のリンパ節まで転移がみられる場合、または肝臓、肺、腹膜など他の臓器に転移している場合Ⅳ期に分類されます。
Ⅳ期の胃がんの場合は、外科的手術は行わず、状態に応じて、化学療法、免疫療法、放射線治療、対症療法などが選択されます。
化学療法にあたっては、胃がん組織の病理検査や遺伝子検査を行い、結果によって治療薬が選択されます。